新時代のコーチング概念
新時代のコーチング概念
2014年、当時私が所属していたビジャレアルというクラブでは、
120名の指導者が指導現場の改革に取り組んだ。
指導者のマインドセットの過程において、こうした指導者の苛立ちが散見されるたび「そこにあるあなたの本心は何?」と、
メンタルコーチに何度問われたことだろう。
指導者の苛立ちの正体は、「オレの言う通りにしないお前が気にくわない、ではないか?」と。
そして、
「スポーツは誰のものだ?」
「選手は指導者を満足させるためにプレーしているのか?」
「他者を平伏させることで、ある種の恍惚感に浸っている自分がそこにいないか?」
そんな問いが矢継ぎ早に飛んできたものだ。
そこにある自分の本音や本性に自覚的になること。
そこから自らの行動変容が生まれることへの気付きを得た。
「言葉は思考をつくるから、使う言葉は綺麗な方がいい」そんな助言も受けた。
日本語でいうところの「てめぇ」「こいつ」「おまえ」などといった言葉だと理解頂ければいいだろう。
これらを別の言葉に置き換えてコミュニケーションを取ることは、決して難しいことではないはずだ。
また「感情をひとつひとつ丁寧に言葉にする練習をしながら解像度を高めると良い」といったヒントも得た。
「使えない」「だからお前はダメなんだ」「そんなプレーは小学生でもできる」。
こうした表現の奥にある自分の感情を、もっと解像度高く言語化できれば、きっと違ったコミュニケーションが生まれるだろう。
そんなちょっとした自己改善に取り組むだけで、選手との関係性が向上することを学んだ。
さらに昨今、指導者界では「フットボールをヒューマナイズする」と表現されるように、
指導環境を「人間的で体温を感じられるものにする」意識が高まっている。
この概念は、スポーツにおけるアクター(主役)であるアスリートを起点にあらゆる発想を起こし、
よりよいパフォーマンスを追求しようというもの。
これまで100年以上にわたるフットボールの歴史を振り返り、
極めて非人間的(人情的)であったこれまでの指導現場に対する反省から生まれた概念であると感じる。
アスリートが何を感じているのか。
何を思い、何を考えているのか。
何が見え、何が聞こえているのか。
アスリートが、どうしたいのか。
こうした観点を軽視せず、指導者はそこから選手とともに共通認識という合意形成を経て、
チームとして競技に臨むというコーチング概念である。
指導者は、アスリートのパフォーマンスを最大に引き出すコーチング方法として、いくつかの選択肢を持つ。
どれを選ぶかはその人しだいだが、そこにある選手との関係性の豊かさは、
指導者がそれまでの人生で何を学び、考え、行動してきたかの通知表であることを忘れてはならない。
選手そして指導者のみなさんへ
人は、否定されたり批判されると、脳が委縮し身体が強張る。
脳が炎症し心が傷を負った状態で、最高のパフォーマンスを発揮できる人などいようものか。
「追い込んでやる気を出させる」だなんて、そんな無茶な理屈を一体いつまで信じるのだろう?
アスリートの皆さんに、声を大にして伝えたい。
尊厳を冒されてまで耐え抜く先に価値などない、と。
あなたを丁寧に扱い、尊重し、大切にしてくれる指導者を選んでほしい。
蔑み雑に扱われることに慣れる前に、そこから離れる選択肢があなたにはあるのだから。
その人が、本当に優秀な指導者であるのなら、あなたに適切なフィードバックを提供するだろう。
フィードが「栄養を与える」という意味を含むとしたら、
暴言や罵倒は「毒」であり、あなたを育てる「栄養素」には決してなり得ない。
そして、スポーツ現場で日々悪戦苦闘している指導者のみなさんには、
「あなたは、そんなあなたが好きですか?」
この問いを投げかけ、共有したい。
人は死ぬ直前にどんな後悔をするのだろう?
誰もがみな、いつかは灰となる。
権力者も、富豪も、賢者も。
あなたも、私も。
みな、同じように。
あなたの選手は、あなたがどれだけ立派な理論を話し聞かせたかではなく、
あなたにどんな思い(感情)にさせられたかを、生涯ずっと覚えているだろう。
そこにいるあなたの選手は、輝かしく眩しい存在であることを今一度思い出し、彼らと正対できる自分になろう。
そして、温かい心で歩み寄り、目の前の彼らを大切に扱うことにこそチャレンジして欲しい。
例えそれが、たったひとりの人であったとしても、その人を傷付け尊厳を侵害することほど、
取り返しのつかない信頼の損失はない。
そして、人生においてこれ以上の後悔はないだろう。
不安や恐怖で繋がるよりも、優しい心で繋がる関係性の方が、誰だって幸せに決まっているのだから。
以上
佐伯さんJリーグの理事を任期満了で退任された。
日本のトップリーグの役員として… 発信されたこと。
大切なこと。スポーツを文化にし、人々の生活に欠かせない豊なる活動ということ。
大人が変わらなければ… 子どもたちは変わらない。
NABE Enjoy Sports Labo.358

教えないスキル ~ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術~(小学館新書) - 佐伯夕利子
2014年、当時私が所属していたビジャレアルというクラブでは、
120名の指導者が指導現場の改革に取り組んだ。
指導者のマインドセットの過程において、こうした指導者の苛立ちが散見されるたび「そこにあるあなたの本心は何?」と、
メンタルコーチに何度問われたことだろう。
指導者の苛立ちの正体は、「オレの言う通りにしないお前が気にくわない、ではないか?」と。
そして、
「スポーツは誰のものだ?」
「選手は指導者を満足させるためにプレーしているのか?」
「他者を平伏させることで、ある種の恍惚感に浸っている自分がそこにいないか?」
そんな問いが矢継ぎ早に飛んできたものだ。
そこにある自分の本音や本性に自覚的になること。
そこから自らの行動変容が生まれることへの気付きを得た。
「言葉は思考をつくるから、使う言葉は綺麗な方がいい」そんな助言も受けた。
日本語でいうところの「てめぇ」「こいつ」「おまえ」などといった言葉だと理解頂ければいいだろう。
これらを別の言葉に置き換えてコミュニケーションを取ることは、決して難しいことではないはずだ。
また「感情をひとつひとつ丁寧に言葉にする練習をしながら解像度を高めると良い」といったヒントも得た。
「使えない」「だからお前はダメなんだ」「そんなプレーは小学生でもできる」。
こうした表現の奥にある自分の感情を、もっと解像度高く言語化できれば、きっと違ったコミュニケーションが生まれるだろう。
そんなちょっとした自己改善に取り組むだけで、選手との関係性が向上することを学んだ。
さらに昨今、指導者界では「フットボールをヒューマナイズする」と表現されるように、
指導環境を「人間的で体温を感じられるものにする」意識が高まっている。
この概念は、スポーツにおけるアクター(主役)であるアスリートを起点にあらゆる発想を起こし、
よりよいパフォーマンスを追求しようというもの。
これまで100年以上にわたるフットボールの歴史を振り返り、
極めて非人間的(人情的)であったこれまでの指導現場に対する反省から生まれた概念であると感じる。
アスリートが何を感じているのか。
何を思い、何を考えているのか。
何が見え、何が聞こえているのか。
アスリートが、どうしたいのか。
こうした観点を軽視せず、指導者はそこから選手とともに共通認識という合意形成を経て、
チームとして競技に臨むというコーチング概念である。
指導者は、アスリートのパフォーマンスを最大に引き出すコーチング方法として、いくつかの選択肢を持つ。
どれを選ぶかはその人しだいだが、そこにある選手との関係性の豊かさは、
指導者がそれまでの人生で何を学び、考え、行動してきたかの通知表であることを忘れてはならない。
選手そして指導者のみなさんへ
人は、否定されたり批判されると、脳が委縮し身体が強張る。
脳が炎症し心が傷を負った状態で、最高のパフォーマンスを発揮できる人などいようものか。
「追い込んでやる気を出させる」だなんて、そんな無茶な理屈を一体いつまで信じるのだろう?
アスリートの皆さんに、声を大にして伝えたい。
尊厳を冒されてまで耐え抜く先に価値などない、と。
あなたを丁寧に扱い、尊重し、大切にしてくれる指導者を選んでほしい。
蔑み雑に扱われることに慣れる前に、そこから離れる選択肢があなたにはあるのだから。
その人が、本当に優秀な指導者であるのなら、あなたに適切なフィードバックを提供するだろう。
フィードが「栄養を与える」という意味を含むとしたら、
暴言や罵倒は「毒」であり、あなたを育てる「栄養素」には決してなり得ない。
そして、スポーツ現場で日々悪戦苦闘している指導者のみなさんには、
「あなたは、そんなあなたが好きですか?」
この問いを投げかけ、共有したい。
人は死ぬ直前にどんな後悔をするのだろう?
誰もがみな、いつかは灰となる。
権力者も、富豪も、賢者も。
あなたも、私も。
みな、同じように。
あなたの選手は、あなたがどれだけ立派な理論を話し聞かせたかではなく、
あなたにどんな思い(感情)にさせられたかを、生涯ずっと覚えているだろう。
そこにいるあなたの選手は、輝かしく眩しい存在であることを今一度思い出し、彼らと正対できる自分になろう。
そして、温かい心で歩み寄り、目の前の彼らを大切に扱うことにこそチャレンジして欲しい。
例えそれが、たったひとりの人であったとしても、その人を傷付け尊厳を侵害することほど、
取り返しのつかない信頼の損失はない。
そして、人生においてこれ以上の後悔はないだろう。
不安や恐怖で繋がるよりも、優しい心で繋がる関係性の方が、誰だって幸せに決まっているのだから。
以上
佐伯さんJリーグの理事を任期満了で退任された。
日本のトップリーグの役員として… 発信されたこと。
大切なこと。スポーツを文化にし、人々の生活に欠かせない豊なる活動ということ。
大人が変わらなければ… 子どもたちは変わらない。
NABE Enjoy Sports Labo.358

教えないスキル ~ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術~(小学館新書) - 佐伯夕利子
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